サイエンス小咄:ある物理学者の昼食

ある日の遅昼の食卓。
「おい、そこの醤油の横にあるダークマター取ってくれ。」
「え・・。どこにあるの?見えないわよ、自分で取ったら」
「そこにあるだろう、ああ、そこのブラックホール印マヨネーズの後ろにある、くろいチューブに入ったやつだ」
「ええ、これダークマターじゃないわよ」
「何を言っとる。それでいいんじゃ」
「違います。あんたももうろくしたわね。これはお隣の湯川さんの実家から、おすそ分けでもらったパイ中間子ソースじゃない」
「いや、それに間違いない」
「いいえ、パイ中間子ソースです。証拠にチューブの裏の表示には、成分:パイマイナス、パイプラス、パイゼロって書いてあるわ」
「そうか、じゃあダークマターはどこ行ったんじゃ」
「そんなの知りません。あなた、あれ本当に買ったの? まだ発売していないって聞いてるけど」
「そうか、じゃあしょうがない、パイ中間子ソースで間に合わせるか」
「そうよ、これも結構いい味よ」
夫は、焼きぞばにパイ中間子ソースをかけようとする。
「おい、このソース、賞味期限2.6掛ける10のマイナス8乗秒って書いてあるぞ、いつもらったんだ」
「たしか、このあいだ、隣の奥さんに会った時にもらったから、5.8掛ける10のマイナス9乗秒前だわ」
「そりゃいかん。早く使っちまわないともったいない」
「そうね・・」
夫婦はたっぷりとソースをかけて焼きぞばを食した。
「やっぱりおいしいわね。この味」
「う~ん。うまいがもうちょっとダウンクオークの味が効いていた方が俺は好きじゃがな」
食べ終わると、夫は背を丸めて食器を粒子加速食器洗い機に入れた。
「この食器洗い機は300エレクトロンボルトタイプだな。そろそろ省エネ型に買い換え時期かな」
妻はその独り言を耳ざとく聞きつけた。
「なに言ってるのよ、いくらすると思ってるのそれ、もうちょっと我慢して使ってちょうだい」
「はいはい、わかりました。それにしてもダークマター。どこに隠れてんだろう・・・」

← 過去の投稿へ

次の投稿へ →

1 Comment

  1. 匿名

    小噺四篇読ませて頂きました。
    上手い!座布団三枚!笑

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。